2016年度 絵本作家講演会 黒井健さん

行橋市では、毎年絵本作家さんの講演会が催されます。今年は『ごんぎつね』でやわらかい色合いで、ふわふわ感たっぷりのイラストを描かれる黒井健さんの講演会でした。

ハナミズキのみち いのちの道標

ハナミズキのみち

講演会が始まって、まず初めにお話があったのは『ハナミズキのみち』の絵本でした。その日は3月11日でした。2011年のその日、たくさんの命が奪われました。あの東日本大震災から、今年で6年経ちました。

この絵本は震災にあわれた陸前高田市の淺沼ミキ子さんが文、黒井健さんがイラスト。とても優しい色合いのふんわりとした表紙です。この絵本が生まれるまでのお話を聞きました。

淺沼さんの息子さんが好きだったハナミズキを道沿いに植えて、今度津波がきたらそのハナミズキをたどって逃げられるようにとの思いが絵本に込められています。他にもたくさんの言い尽くせない思いがおありだったことでしょう。

大切な存在を失うとき、言い表せないほどの悲しみに襲われることでしょう。絶望しか見えないかもしれません。その後もずっと、混沌とした気持ちを静める術もなく、ただ毎日が過ぎ去っていくのを耐えるだけで精一杯なのかもしれません。

私は昨年、この絵本を読みました。子どもと読みましたが、読む声が何度もつまり、その度に子どもが私の顔を覗き込みました。恐ろしい津波が去り、人々の心を荒らした後にやっと訪れた穏やかな世界と希望を、黒井さんの優しい絵が見事に表しているように感じました。

どんなに荒れ果てても、命は吹き返す。命の強さ、去って行った人への愛がいっぱい詰まった絵本のように、私は感じました。

イラストを担当して、特に難しかったところは津波をどのように描くかだったそうです。被害にあった方がその絵を見て、どのように感じられるかも、心配されたそうです。絵本の制作秘話を聞くと、その絵本の存在がもっともっと私の中で大きくなります。この思いこそが、講演会でじかに作家さんのお話を聞きに行く動機です。

絵の変化

黒井さんの代表作といえば『ごんぎつね』。

ごんぎつね (日本の童話名作選)

黒井さんは大学を出てから学研の編集者をされていました。その後、ずっと絵を描いていたいとの思いが強くなり、退社後はイラストレーターとして、希望通り絵を描くお仕事についたそうです。

けれども当時はごんぎつねのようなイラストではなく、幼児雑誌のイラストの仕事を主に受けていたこともあり、くっきりはっきりかわいらしい絵でした。

当時、絵本は子どもたちを喜ばすために、明るくてかわいい絵を描かなくてはならないと思っていたそうです。「絵本のキャンディ化」という言葉で表現されていました。

ごんぎつねがきっかけ

当時は仕事に恵まれ、たくさんのイラストを描いていたそうです。たくさんの絵本のイラストを描いたのに・・・書店に行くと自分がイラストを描いた絵本が置いてない!!という実態に絶望されたとのこと。

その頃、ごんぎつねのイラストの依頼があったそうです。もうこれで売れなければこの仕事はやめようという決意で臨んだそうです。今までしなかった取材。作者の新美南吉の故郷を訪ねて歩き、ごんぎつねを書いた人物がおそらく見たもの、見た景色を見て、感じたままをイラストにしたという話は、とても興味深かったです。

今売れている黒井さんイラストの『ごんぎつね』。実はもっと昔に『ごんぎつね』のイラストを描いていたそうです。その頃はまだ今のようなスタイルでイラストを描いていらっしゃらなかったし、ご本人も忘れていたほど?!『ごんぎつね』今昔ということで、昔描いたものと今のごんぎつねのイラストを比べて見せていただきました。

ありゃりゃ~^^; 全然違うのね~。同じ人とは思えないほど変わっていました。ストーリーをどう読むかでイラストがここまで変わったとのこと。

手ぶくろを買いに

手ぶくろを買いに (日本の童話名作選)

イラストが変わった後の『手ぶくろを買いに』の制作過程の話しも面白かったです。1ページごとにストーリーがあり、それに対してどんなイラストを描くか。どのように考えて何をどのように描くかという話です。きつねの子どもがたずねて行った町のお店。店内の雰囲気はどんな感じであるか、店主はどんな風貌をしているのかなど、文章には書いていない部分を想像して描くのですね。想像といっても全く自由な発想でというのではなく、時代やストーリーから読み取れる人物の性格などに合ったイラストを生み出すのですね。

紹介されたその他の絵本 一部

黒井さんがイラストを担当された本が、いくつかエピソードとともに紹介されました。その中でも、私がぜひ読んでみよう!と思ったものを紹介します。

猫の事務所 (日本の童話名作選)

宮沢賢治 文、黒井健 イラスト。宮沢賢治って、相当昔に読んだきり。また読んでみたいし、タイトルが興味深い。読んだらレビューを書いてみたいです。

だれかが ぼくを (PHPわたしのえほん)

衝撃的なタイトルです。中身もかなり衝撃的なようです。この手の(衝撃的な)絵本は、洋書絵本ではよく見かけますが、日本の絵本にもあるんだな~と思い、これはぜひ読んでおかなくてはと思いました。

こちらも読み終えたらブログで書きたいと思います。

おわりに

コスメイトの文化ホール座席数は429。このホールにだいたいパッと見ですが、3分の1くらいの聴講人。150人ぐらいでしょうか。見当ハズレかもしれませんが^^;

無料の講演会なのに、これだけしか聴きに来ない?!もったいないと思いました。無名の作家さんではなく、第一線で活躍されている方ばかり毎年来られている行橋の絵本作家講演会。講演会があることを知らない人が、まだまだいるかもしれません。はたまた絵本作家の講演会には興味のない方が多いのかもしれません。

育児中のお母さんや、保育士さん方、小学校の先生方も、もっと聴きにくればいいのにな~と思いました。絵本があまり好きでなくても、好きになるきっかけになるかもしれないし。何しろ絵本を描いているご本人がいらして、貴重な経験談が聞けて、その後サイン会もあって、ちょこっとお話もできるんですよ!

読み聞かせのボランティアの方や、学校図書館司書の方を会場でお見かけしました。もっとたくさんの方に来てほしいですね。絵本は子どもだけのものではないですし、ここで聞けるお話、経験談は絵本やイラストに限った話ではありません。人生とは何かについて、自分なりに考える材料がゴロゴロ見つかります。

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