先日行橋市図書館で見つけた、とても面白そうな本。『疾走した画家 ランドルフ・コルデコット』を借りました。コルデコットのことがいろいろわかり、益々好きになりました!
疾走した画家 ランドルフ・コルデコット
上リンクはアマゾンですが、画像がありませんでした。結構大きな本です。
コルデコットのイラストファンなら、表紙を開いたところから大コーフン。イラストがたくさん載っています。表紙のイラストは『The Diverting History of John Gilpin』、日本語のタイトルは『ジョン・ギルピンのこっけいな出来事』。コルデコット絵本の復刻版(全16冊)は行橋市図書館にあります。ジョン・ギルピンもありますよ。16冊の中には、お腹を抱えて笑える本とか、ゾーっとする本とか、いろいろあるので手にとって見てください。ちなみに本は洋書です。日本語の解説本も一緒に置いています。
コルデコット 銀行員時代
まずは自画像があります。かなり若いです。私には、子どものような好奇心旺盛なまなざしに見えました。39歳のとき、旅先で亡くなっています。40歳の誕生日を1ヵ月後にひかえていたそうです。天才画家・・・短命ですね。もともと身体はあまり丈夫ではなかったようです。
さて、コルデコットは始めから画家をめざして暮らしていたわけではありませんでした。1846年、イングランドのチェスターで生まれました。この時代、教育は贅沢と考えられており、コルデコットは他の子ども達と同様、14歳で学業を終え、父の勧めで銀行員になりました。
銀行に勤めていても、絵を描くのが好きで、仕事中いろいろ絵を描いていたそうです。当時の新聞は記事にイラストを載せるようになっていたようで、コルデコットはイラストを描いて新聞社に送るようになったそうです。実際イラストは採用され、新聞のニュースに添えられることがたびたびあったとのこと。
絵を学びたい気持ちが高まり、田舎町からマンチェスターへ移り住みました。とはいえ、画家として生計を立てるめどもなく、マンチェスターの銀行に就職します。銀行では同僚の行員たちの横顔をスケッチ。そのうちに雑誌2つに、定期的に挿絵を描く仕事を得ました。次第に有名人とも知り合いになり、ロンドンへ出かけることもたびたび。そしてとうとう、ロンドンに移り住むことになりました。
コルデコット 画家として生きる
ロンドンで住むのをきっかけに銀行をやめ、絵で生きていくことに決めたコルデコット。その道は楽なものではないということを、彼はよくわかっていました。けれどロンドンには、描きたい題材が身近にたくさんありました。そしてイギリスで有名な画家のひとりエドワード・ポインターの写生画の教室に入りました。どんどん雑誌に挿絵が掲載されるようになってきました。旅をするのも好きで、旅先でスケッチブックを出してイラストを書き続けました。
大きな挿絵の仕事も入るようになりました。作家の書いた本に挿絵を書く仕事です。アメリカが舞台であるけれど、自分はアメリカに行ったことがないと思い悩んだり、まず第一に自分は本格的な絵の勉強はしていないなどと、悩み苦しんでもいた様子です。それとは裏腹に、描けば批評家達から大絶賛。
絵本作家としてのコルデコット誕生
コルデコットは出版プロデューサーのエドマンド・エヴァンズと出会います。エヴァンズは当時コルデコットのライバルであったウォルター・クレインに絵本の仕事を依頼していました。ところがこの仕事にも飽きてきて、他のことがしたいということで、ウォルター・クレインから手を引きたいと申し出がありました。そこでエヴァンズはウォルター・クレインの後釜に、コルデコットを考えたのでした。
後釜とはいえ、ウォルター・クレインと同じ絵を描けというのではなく、自分らしさを生かした絵を希望していることをコルデコットに伝えました。そうして絵本作家ランドルフ・コルデコットが誕生しました。クレインとコルデコットの絵の違いについて、以下ような記述がありました。
「クレインの絵は枠の中にびっしりと描きこまれているが、それが凝りすぎていて動きがない。それと異なり、コルデコットの絵は気軽さと自由さがあって、流れるままに描かれた絵には動きがある」と。
クレインとコルデコットの絵を見比べてみると、確かに!私もそう思えました。クレインの絵は細部まで丁寧に描かれています。すきがありません。びっちり感があり、それはそれで美しいのですが、静止画という印象です。それに対してコルデコットの絵は生き生きとして動きが感じられる。なぜそうなのか、絵心のない私なりに考えてみました。
私が気づいたのは、コルデコットの絵に込められた強いメッセージ。たとえば『The Fox jumps over the Parson’s Gate』、日本語のタイトルは『キツネが牧師さんちの門をとびこえる』の絵を見てみると、ここでのメッセージは「キツネを追い立てる」。棺のようなものを跳び越える狩り犬たち、馬にまたがり狩りをする男性たちが描かれています。人だけではなく、犬の表情までも一つ一つ違っていて動きの細部まで描かれています。けれど背景になる部分は、ざっと書かれているのです。それによって、見る人はこの絵のテーマになっている対象が浮き出て見えるのではないかと。
コルデコット絵本の魅力はそれだけではなく、カラーの挿絵の間に、線画が描かれていて、それが文章とカラーのイラストの間にできた溝を埋めてくれる。上手い表現が見つかりませんが、そんな感じ。白黒の小さなイラストですが、その存在感は大きいですし、ユーモアたっぷりで非常に面白いです。しかも線画であっても動きが感じられる。素晴らしいです。
ご紹介したいコルデコット絵本がたくさんあります。詳細は現代絵本の源流 イラストで楽しむコルデコットをご覧ください。コルデコット絵本16冊分のレビュー記事を読むことができます。
著名な絵本作家に大きな影響を与えたコルデコット
晩年は原画が高い値で売られるようになり、動物が服を着ている原画があったのですが、それを弁護士が買い取り、家の壁にかけたそうです。その絵を楽しんでいたこの家の娘が、自分も画家になりたいと志し、本当に絵で大成功したのでした。その娘さんの名前は「Beatrix Potter」、そうあの「ビアトリクス・ポター」です。ピーターラビットの作者です。
その他にも私が大好きなMaurice Sendak(モーリス・センダック)も、彼の影響を受けた人物の一人です。センダックは『Where the Wild Things Are』、日本語のタイトルは『かいじゅうたちのいるところ』が有名ですね。
おわりに
ランドルフ・コルデコットの人柄や仕事について、知ることができる貴重な本です。コルデコットはどんどん有名になり、イギリスだけではなくアメリカでも高く評価されました。これからというときに、旅先のアメリカで他界。イラストを描くことは生きること、と感じずにはいられない彼の人生に感動しました。