こんなタイトルの本を見つけました。(2016年3月24日に加筆・修正しました。)
たった80単語! 読むだけで英語脳になる本 だからすぐ使える! すぐ話せる!
本のタイトルは『たった80単語! 読むだけで英語脳になる本 だからすぐ使える! すぐ話せる!』。仕事柄、話題の英語教材とか英語学習本に目を通すようになり、その上で英語が苦手だった自分の英語学習経験と照らし合わせて思うのですが、「たった○○だけで」とか「すぐ○○できる」なんて言葉は信用ならない。それ「だけ」で何ができるようになるのか。そこのところを明確に示してくれるのならまだいい。使えるとか話せるとか、大きなこと言われても、どんなレベルなのかもよくわからないです。
著者は右脳開発に力を入れている人のようです。ざっと読んだ私の感想は、目のつけどころ(指摘しているポイント)は良いと思います。つまり、英単語を意味(言葉、それも日本語)で覚えるのではなく、イメージで覚えることをすすめている点。著者は学校での英語教育は、左脳を使いすぎているのではないか、もっと右脳も使うべき、ということを主張しています。私もそうだな、と思いました。
なぜ日本人がなかなか英語を話せないかという例が、わかりやす書かれていたので、少しご紹介します。
語彙力だけでは話せない
この本の「はじめに」のところに書かれていた話です。著者が出会ったアメリカ生まれアメリカ育ちの4歳の女の子。一般的に4歳というと、母国語で1,500語ぐらいの語彙を身につけているようです。彼女もそれぐらいの語彙レベルであるとの推測でお話は進みます。日本では1,500語というと、中学3年間で習う程度の単語数らしいです。
では日本で中学3年間の英語教育を受けた人は、このアメリカ人の女の子ぐらい英語が話せているか、と著者は問うています。答えはNo。なぜかというと、日本では左脳優位な英語教育をしているために、英語ネイティブの女の子のように、とっさに言葉が出てこないのですって。
右脳を使う?
この左脳優位という言葉、わかるようで実際本当にわかっているかと聞かれると、私はわかっていません。そもそも意識して右脳とか左脳とか使っていませんし・・・。
この本には、右脳を使って単語が覚えられるように工夫をしていると書いています。その工夫とは「感覚」、「イメージ」、「右脳的な刺激」を与えることで「ネイティブの語感」を養うというものです。さてさて、実際どうだろうか・・・・と、本の中身を見てみました。
右脳を使う takeの例
この本の中から、単語を一つピックアップしてみましょうか。たとえば take。この単語、この本では「ぐいとつかむ」というイメージで理解すると書いていました。絵もあるのですが、ちょっとした挿絵程度であり、絵でイメージをしっかり焼き付けるというほどのレベルではありませんでした。
「ぐいとつかむ」という日本語の説明がついていて、これをベースにして、いろいろな場面で使われるtakeの表現を例文一文で示し、その日本語訳と、必要に応じてなぜそのような日本語の意味になるかを説明していました。この例文が「英語脳になるフレーズ」として、一つの英単語につき20の場面、計20個の例文が載っていました。
以下は私の個人的意見です。
私がしている「単語をイメージで」との違い
日本語訳はすぐ見えるところにあると邪魔
これって・・・単語をイメージでとらえるという発想は素晴らしいのですが、結局意味を日本語で覚えて、例文20文を挙げて日本語の訳つきなんて、他の英語学習本とどう違うのかな・・・と思いました。確かに右脳開発をしたことがあって、右脳を使うことに慣れている人が見たら、違うのかもしれません。でも私は特別そんなトレーニングをしたこともありませんから、どうやって右脳を使ってイメージで覚えたらいい、という「方法」というか、「テクニック」を知りません。おそらく多くの学習者もそうではないかと。
私も英語学習法の本を出版したのでわかりますが、日本語訳は必要とされると思います。けれどもすぐに見えるところに書いちゃいけないかな~と思いました。イメージを膨らますための日本語ならまだしも、英文の日本語訳が丸見えだと、どうしてもそっちに目が行ってしまいますから・・・。
この本は使い方にもよるのかもしれませんが、ただ読んでいるのでは今までの学習法と変わらないと思いました。結局、日本語訳を読んで、例文を理解して覚えるのであれば、今までとなんら変わらないのでは?つまり著者のいうところの、左脳優位の暗記型の勉強に陥るリスクが大きい気がします。
やっぱり左脳も右脳も使うよね
右脳トレーニングに慣れた人が、この本を見るとまた違うのかも知れませんが、英語を習得するために、まず右脳トレーニング法を身につけるなんていう遠回りなことはしたくない。自分ではっきり意識して右脳を使っているわけじゃないからなんだかよくわからないのですが、言語は右脳、左脳のどちらですかね?日本語は左脳で英語は右脳?そんなことないと思うのですが、いかがでしょうか?
念のために書き添えますが、一般的に左脳は言語、計算、論理的思考などを行い、右脳は非言語、イメージの記憶、空間認識を行うと言われていることは知っています。さらに、外国語習得のために右脳を有効に使おうというアイデアもよく目にします。結局のところ、母国語であっても完全に左脳だけを使っているのではなく、必要に応じて右脳も使っていると思います。外国語も同じですね。左脳だけで英語を習得するのではなく、必要な部分は右脳も使うということなのでしょう。それが今回紹介した本の、英単語をイメージで覚えるというものなのでしょう。
私の懸念は、英単語をイメージでという本を読んでも、英語を理屈で理解しようとしている限り、右脳は使えてないのではないかということです。本当にイメージとして焼き付けたいのであれば、本当は文字がないほうがよいのかもしれません。どうなのでしょうか?
例文ではなくストーリーで
私は洋書の多読をしていて、英単語をイメージで、というよりも英文を読んだらイメージで理解できるようになりました。日本語に訳さなくても意味がわかるようになりました。洋書を読むときには辞書はもちろん使わないし、日本語訳なんてありません。わからないところはわからないままだったり、推測してわかったり、物語が進むにつれわかることもあります。
1-2文しかない例文だと、イメージできないことはないけれど、浅いイメージになってしまいがちです。ストーリーの中で理解するのとは深さが全然違う気がします。辞書を使わなくても、日本語訳を見なくても単語の意味がわかるようになることは実体験からも間違いないと言えます。ただし膨大な量の英語を読まなくては、そういう経験はできません。
けれどもよく考えてみてください。英語圏で暮らしている4歳の女の子が見聞きしている英語量を考えると、例外はあるにしても平均的には日本人が学校の英語教育(~高校・大学まで)で見聞きする英語量よりも多いはずだと思いませんか。結局のところ、私は英語に触れる「量」の不足が圧倒的に大きな問題だと思っています。
結論
結論を言うと、今日紹介した本「だけ」でどうにかなるのではなく、やはり大量に英語に触れる時間を作らなければどうにもならないと思います。